『旧約聖書』はキリスト教、イスラム教、ユダヤ教の正典ですが、世界55億のうち10億人以上の人間がイスラム教徒で、ローマ教会の背後には9億人以上の人間がいて、その他のキリスト教会においても何億人もの人々がいます。よって、人類の過半数が『旧約聖書』を聖なる書物として信仰していることになります。ということは、人類の大半にとってイスエラル12支族に関する事柄は、無視できない非常に大きな問題となっているわけです……。


●ところで、『旧約聖書』を全然知らない人まで、イスラエル共和国建国は“預言の成就”という西側のプロパガンダをそのまま信じる傾向にありますが、このイスラエル共和国は何の根拠も正統性もない人工国家であることは、もう十分にお分かりいただけたと思います。聖書の記述通りに復活を遂げた“神の国”だというZion主義者たちの主張は、全くの妄想に満ちたものと言えます。

何度も繰り返しますが、パレスチナにユダヤ国家が存在する必然性はどこにもないのです。今となっては信じられないでしょうが、そもそも初期のZionistたちの間では、新国家をどこに建国するかで、もめていたのです!


●最初にユダヤ国家樹立を提唱した“近代シオニズムの父”テオドール・ヘルツル。彼はユダヤ教に全く関心を示していませんでした。そのため、必ずしも今日のパレスチナ地方にユダヤ国家をつくらなくてもよいと考えていました。彼はロスチャイルドのバックアップを受けるため、幾度もロスチャイルド家を訪ねましたが冷たくあしらわれ、しょうがなく、パレスチナを400年も支配し続けていたトルコ帝国の皇帝に会おうとしましたが、それも実現しませんでした。そのため彼は失意の中で、アフリカのウガンダ、あるいはマダガスカル島にユダヤ国家をつくろうという「修正提案」をしていたのです。

 

 
入植候補地の東アフリカ(=ウガンダ案)。ヘルツルはパレスチナにかわる
代替入植地として「ケニヤ高地」を勧めるイギリスの提案を受け入れていた。

 

●また、イギリスのユダヤ人作家イスラエル・ザングウィルは、テキサス州とオクラホマ州の一部の土地を購入して「ユダヤ州」を作ろうという提案をしていました。

しかし、あくまで“ユダヤ人”であることを名乗るZion主義指導者の間では、自分たちのアイデンティティを確保するため、ユダヤ国家はパレスチナ地方でなければならないという声が大勢を占めたと言われています。まさに今日におけるパレスチナ問題の元凶がここに見られます。


●なお、ユダヤ長老議会で正式に不採用となったヘルツルの「マダガスカル移住案」は、その後、ポーランド政府が自国内のユダヤ人を移住させるための計画として採用しました。また、1933年まで、ドイツ社会党の重要な綱領の一つとして、同党はパンフレットを作ってその問題を宣伝し続け、1940年には、ヒトラーが400万人のユダヤ人をマダガスカル島に移住させるための具体的な計画を立てていたと言われていますが、戦局が困難に陥ったため、2年後に放棄されてしまったとのことです。

ちなみに、ロスチャイルド家は最終的にZionistの活動に全面的な資金援助をしたわけですが、ヘルツルがロスチャイルドを初代イスラエル大統領に推すと、ロスチャイルドは丁寧にそれを辞退しました。



●ところで、一連の「ユダヤ問題特集」の中において、Zionist問題に焦点を当ててイスラエル共和国の矛盾を説明してきたわけですが、その背後に潜む“欧米キリスト教勢力”という最重要テーマを省略していたため、私の中東問題全体に関する考察は中途半端な状態にとどまっていました。

確かに私はイスラエル共和国の急進的かつ排他的なシオニズム活動を、パレスチナ問題の元凶として批判しましたが、それが中東問題全体をこじらせ続けている全てだとは思っていません。中東における“欧米キリスト教勢力”の動きを考慮に入れなくては、そもそもイスラエル共和国が強引にパレスチナ地方に建国された最大の意図も、今後の中東情勢の全体像も見えにくくなってしまうことは十分に承知しております。


●パレスチナ地方に昔から執着心を抱き続けているのは、なにもユダヤやアラブだけでなく、キリスト教勢力もいるわけですが、彼らは8回にもわたる十字軍遠征によって、パレスチナ地方からイスラム勢力を駆逐しようという大々的な活動を展開してきた黒い経歴を持っているわけですよね。

この中世十字軍活動の中で、私が注目している事の一つとして、キリスト教勢力がパレスチナの地に「エルサレム王国(1099~1187)」という純粋なキリスト教国家を一時的に建国していたという歴史的事実があります。(この時、パレスチナにいたユダヤ人たちは、乗り込んできたキリスト教徒によって真っ先に虐殺されています)。


●結局、パレスチナ地方に乗り込んだキリスト教勢力はイスラム勢力に撃退されてしまったわけですが、20世紀に入るまでのパレスチナ地方には、現在のような血生臭い「アラブ人とユダヤ人の対立」が無かったという歴史的事実も、現在の中東問題全体の根本原因&解決案を探る上での絶対に見過ごせない要素となりましょう。


●十字軍時代以降のパレスチナ地方を20世紀初頭まで400年間支配し続けたオスマン・トルコ帝国を解体したのは、「石油を制するものが世界を制する」ことに目覚めた大英帝国をはじめとする欧米列強であったわけですが、彼らが世界一の石油埋蔵地を確保したいがために、アラブの意向を全く無視した身勝手な中東支配戦略(植民地政策)を開始してしまったことこそが、現在のパレスチナ問題を発生させた最大原因であったと私は見ています。

そして、欧米列強は中東戦略をより円滑に進める駒として、ちょうどその頃に台頭してきたZionist勢力のシオニズム活動を最大限に“利用”したものと見ています。


●この件について、ユダヤ人イラン・ハルヴィが著書『ユダヤ人の歴史』の中で以下のような興味深い見解を示しています。

「もともと19世紀のヨーロッパには“東方問題”というものがあった。ユダヤ人問題は徐々に東方問題の一部となった。ナポレオン3世の副官であるエルネスト・ラハランは、ヨーロッパにおけるユダヤ人問題を憂慮し、『東方の新しい問題─エジプト及びアラブ帝国=ユダヤ人の再編成』という小冊子を出していた。 〈中略〉

“変革”という高圧的な面を持つ政治的シオニズムと西欧列強は強く結び付いた。既に達成されていた事実と既に進行していたプロセスに基づき、ヨーロッパ各国、特にイギリスは、ユダヤ人を東方に移すことによって、ヨーロッパの『ユダヤ人問題』とヨーロッパにおける『東方支配の問題』を一挙に解決できると確信したのである。」



●この欧米キリスト教勢力の中東戦略は20世紀半ばに入ると、より露骨なものになります。1948年に国連の承認を得て建国された“イスラエル共和国”という人工国家は、100万人以上のパレスチナ難民を生み、アメリカの全面的なバックアップを受けて中東一の軍事国家となり、周囲のイスラム諸国を挑発し続け、実際に武力介入&領土拡張(不法占拠)を行ないました。

有名な「モサド」という超一流諜報機関と最新兵器に身を固めたイスラエル精鋭部隊は、常時、イスラム勢力の動向と旧ソ連の南下政策ににらみを利かせることに成功してきたわけですが、歴代のイスラエル政権が白人系ユダヤ人によって独占され続けていることを含めて、イスラエル共和国というものは建国当初から、欧米勢力が軍事的経済的戦略を中東の地で展開する上での「不沈空母」としての役割を宿命づけられていたことが伺えます。


●しかし、80年代後半あたりから、イスラエル共和国の存在価値は軍事的な面においても経済的な面においても、欧米勢力にとって以前ほど重要ではなくなってしまったと言われています。イスラエル共和国の中東におけるイニシアティブの低下を世界に見せつけたのは、1990年8月2日以降の湾岸危機であり、湾岸戦争だったといえます。なぜならば、この時、イスラエル軍の力を借りずして、アメリカ主導の多国籍軍によって中東をコントロールすることができるようになってしまったためです。

イラク軍のスカッドミサイルを市街地に打ち込まれながらも、出撃をアメリカに制止され、屈辱に耐え忍んだイスラエル市民の姿はまだ記憶に新しいです。このイスラエル軍不参加の湾岸戦争を境にして、国連はその巨大な中央集権能力をもって世界の表舞台に立つことになったわけですが、冷戦終結や湾岸戦争を境にして欧米の中東戦略そのものが急変してしまったといえるでしょう。


●また、湾岸戦争後に大きな動きを見せたのはカトリックの総本山であるバチカン(ローマ法王庁)です。1993年12月、バチカンは独自の外交権を駆使して、イスラエル共和国との国交を樹立させました! 新聞では「2000年がかりの和解」という見出しが踊っていましたが、両国の国交締結はイスラエル政府が不法占拠し続ける「聖地エルサレム」の帰属問題をユダヤとアラブだけの問題ではなく、全世界的な宗教問題として広げることになったといえます。


●ちなみにバチカンは、1965年の「第二回バチカン公会議」において、「イエス処刑に責任があるのは直接関与したユダヤ人だけだ」との公式声明を出し、ユダヤ勢力に歩み寄りの姿勢を示していました。更にバチカンは、湾岸戦争後に対イスラエル関係に限らず、アラブ諸国との活発な外交活動を開始しており、中東和平という枠組みの中に積極的に入り込んでいこうとの姿勢を明らかにしているわけですが、今後、中東問題におけるバチカンの国際的発言力は急速に高まっていくものと思われます。(参考までに、バチカンは聖地エルサレムは国連によって“国際管理”されるべきだと主張しています)。



●戦後の中東地域は、イスラエル共和国の建国によって永続的な政情不安定状態に置かれてきたわけですが、イスラエル共和国をサポートしてきた欧米キリスト教勢力がイスラム勢力に対して、歴史的にどのような態度を見せてきたか、そして今後どのような態度を見せていくのかに注目することなしには、バチカンを含めた欧米勢力が描く“中東和平構想”という代物を総合的に考察することができないと思われます。

現在、中東地域には険悪なムードが漂い始めておりますが、私が今後の中東情勢を測る上で大きな関心を払っているのは、「アメリカによる露骨なイラン叩きの行方」です。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争や湾岸戦争を見て、現在のアメリカ主導の“国連”の活動を“十字軍活動”になぞらえてしまうのには、多くの無理があるかもしれませんが、近い将来、「第二次湾岸戦争」が起き、イラク、そしてイスラム勢力がアメリカ軍によって最終的に征伐されるという最悪パターンが私の頭の中にチラつき始めています。


●世界警察を目指すアメリカの軍事戦略、宗教的主導権の世界的確立を目指すキリスト教勢力(バチカン)のエキュメニカル運動、中東和平そのものをご破算にしかねない強硬派Zionist勢力(ネタニヤフ政権)のかたくなな態度、アメリカとの対立を先鋭化しつつあるイラン&イスラム原理主義勢力などなどの諸勢力の思惑を絡めた、私なりの総合的な中東情勢分析・未来予測は、現在製作中のホームページにおいて慎重に展開していきたいと思います。

 

 


 

<ユダヤ問題特集 第10章>

ユダヤ教徒の世紀末メシア待望運動と
失われた10支族探し

 

●一般にユダヤ教には「カルト」が存在しないと言われているが、敬虔なユダヤ教徒たちが、2000年前から持ち続けている最終悲願は、ソロモン第三神殿建設と失われたイスラエル10支族との再統合、そしてメシア(救世主)到来である。現在、ほとんどのユダヤ教徒は、ハルマゲドン(人類最終戦争)の日、神が全てのユダヤ人を再び一つにまとめると信じている。にわかに信じられないと思うが、ユダヤ教徒たちは「ユダ家」を筆頭とする2支族と「エフライム家」を筆頭とする10支族の再統合を、ずっと待ち続けているのである。


●ユダヤ人たちは2000年間に及ぶ離散生活(ディアスポラ)を余儀なくされ続けたが、第二次世界大戦後の1948年、自分たちの国家、イスラエル共和国が建国されたことによって、自分たちはやっと祝福の時期に入ったのだと認識することとなった。と同時に、近い将来起こるハルマゲドンは、ユダヤ人に対する最後の呪いの時で、そのとき全人類の3分の1、ユダヤ人の4分の3が死滅するということを覚悟しているという。

つまり、現在のユダヤ教徒たちは、“呪い”と“祝福”の期間が互いに折り重なったまましばらく続き、ハルマゲドン後のメシア到来によって本格的な祝福の時代(至福千年王国)へと入っていくと考えているのである。

メシアはイスラエルの理想的な指導者で、そのメシアが来る前には、世界中のユダヤ人が全てイスラエルの地に戻って来なければならないという。メシアが先かソロモン第三神殿建設が先かは分かっていないが、機は既に熟しており、いつメシアが来てもおかしくないという。


●イスラエルにある「神殿研究所」では「ソロモン第三神殿の再建予想図」を、コンピュータ・グラフィックなどを使って細部にわたって仕上げている。それは『旧約聖書』や『タルムード』や聖書考古学などの、正確な情報のインプットから生まれたものであるという。この神殿研究所では他に、来たるべき日に用いられる祭司服や神具などの製作を行ない、本格的な準備を進めているのである。

『旧約聖書』によると、神殿の頂点に立つ大祭司には、“アロン家”の血筋でないとなることができない、と言及されているため、ちゃんとアロン家の子孫のための「祭司養成所」が設立されている。そこでの生徒数は約150人で、そのうちの15人が純粋なアロン家の子孫であるという。



●『旧約聖書』のメシアについての預言は340ヶ所あるが、キリスト教徒は、その全てがイエス・キリストに当てはまると主張している。しかし、ユダヤ教徒は絶対にそれを認めようとはしない。

そもそもユダヤ教徒の厳しい戒律生活(タルムード的生活)の中に、イエス・キリストの教えで構成されている『新約聖書』の入り込める余地はない。そのため、イエスがメシアであるということをどうしても認められないようである。


ユダヤ人はイエスを信じないので、もちろんAD(Anno Domini:キリスト紀元)という年号は使用しない。その代わりに、BCE(Before the Common Era:共通1年以前)およびCE(Common Era:共通1年以後)という年号を用いる。このユダヤ暦は西暦に3760年を足したもので、今年(1996年)は5756年になる。


●しかし面白いことに、ユダヤ人は『新約聖書』を完全に無視するが、「ヨハネの黙示録」だけは特別に信仰しているのである。

その「ヨハネの黙示録」によれば、終末の日、自らをメシアだと名乗って登場する人物は「反キリスト」で、“獣”“滅びの子”“666”とも呼ばれ、世界動乱の時に愛と分かちあいを訴えて登場し、新生ローマ(国連?)の指導者として華々しい平和的活躍をするという。

しかしある日突然、反キリストとしての本性をあらわにし、自分こそがメシアであり神であると世界に宣言し、世界統一政府に君臨し、人類を壊滅的な大戦争に巻き込むという。『旧約聖書』の「ダニエル書」では、反キリストが聖なる場所(ソロモン神殿)に入るとき、人類史上かつてない大艱難が訪れ、その期間が短縮されないならば、人類は一人として生き残れなくなると預言しているという(-_-)。

 


今も封印されたままである聖地エルサレムの「黄金の門」

 将来のメシア(救世主)到来の日、この門が開かれるという…

 

●まあ、こういったオドロオドロしい預言の正否は置いておいて、ユダヤ人たちは、やがて帰って来るイスラエル10支族の姿が、ヤコブやモーセの祝福を受けた形で出て来るに違いないと注目しているわけだが、彼らはイスラエル10支族のほうが、現在のユダヤ人たちよりも多くの地上的祝福を約束されていることを、よく理解しているという。


●ユダヤ人たちは「律法」に生きるとともに、「預言」にも生きてきたわけだが、失われたイスラエル10支族に対する捜索は、単なるロマンではなく、具体的な作業に入っており、多くの学者たちも一般の人達も興味を持って進めているのは、知る人ぞ知る事実である。彼らは世界の多くの国々に対してスポットライトを当てて、厳密な民族調査をしており、風俗習慣や言語、性格などの細かい点にまで関心を払って、失われたイスラエル10支族の謎を説き明かそうと努力している。


●果たして、ユダヤ人たちが2000年以上も信じ続けてきたソロモン第三神殿建設と失われたイスラエル10支族との再統合、そしてメシア到来は本当に近い将来実現するであろうか? それとも大いなる誤解に基づいた単なる「迷信」に過ぎないのか? それとも、それらの預言を自分たちに都合のいいように「演出(利用)」しようとするグループがいるのだろうか?(どっかの教団のように……)。